それでも生きていく

生い立ち、恋愛、精神疾患。今までのことを振り返ってみようと思った。ノンフィクション。

生い立ち 3

 

「女の子は何よりも愛嬌が大切なの」

 

繰り返し母に言われたこの言葉は、未だに教訓として生きているし、大人になった今考えると

なかなか確信をついていると思った。

 

 

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煌びやかなドレスに、軽やかなステップ。

ああ、昔母に強請って何度も読んでもらった

おとぎ話のお城の中のような。

 

広く伸びたフロアで流れている音楽にのせて、いとも簡単に踊る母は、まるでお姫様のようだ。

少し汗を滲ませながらもその表情はとても凛としていて、どこか妖艶で、息を呑むほど美しい。

 

だが、その母の腰に手を回す男が、私は気に入らない。

ただのレッスンの講師よと言われても、生徒と講師以上の何かを感じて仕方ないのだ。

 

「君が瑠璃ちゃんだね。お母さんはとてもダンスが上手なんだ。宜しくね」

 

整ってはいるが見るからに軽薄そうな顔立ちに、白い歯をのぞかせるその笑顔がどうも胡散臭く見える。

握手を求めて差し出された手を、私はとることが出来なかった。

 

大切な母に気軽に触らないでというヤキモチと、その男と話している母のとろけるような笑顔に無性に腹が立つ。

 

当時は「不倫」なんて言葉を知らなかったけど

見た目は少女でも、きっと女の勘というものが働いたんだろう。

 

私が母のレッスンにいったのは、その一度だけだった。

あの男に会いたくなかったからだ。

というよりも、あの男と一緒にいる、いつもと違う母を見たくなかったから。

 

父に相談したかったが、母の話題になると途端に無関心になった。

あからさまに母の話題を避ける、父は嫌なことからすぐ逃げるのだ。

 

今のこのモヤモヤした気持ちは、誰に吐き出せばいいのか。

 

誰にも話せなかった。

 

生い立ち 2

 

小学生高学年の頃だろうか。

 

父と母の喧嘩はいつものことだったが、少しずつ何かが違ってきていた。

回数が増え、母は泣きヒステリーを起こし、父は事あるごとへパチンコへ。

 

自慢ではないが、私は空気を読むこと、とっさに仲裁をもつ能力に長けている。

思えば、この子供時代に身についたスキルではないだろうか。

 

顔を合わせるごとに勃発する二人の喧嘩に、小学生の私は内心いつもヒヤヒヤしていた。

声色、空気、表情。喧嘩になりそうなときは、二人が笑うような冗談を言ってみたりして。

場を和まそうと必死だったんだと思う。

 

それでも繰り返される喧嘩に、うまく場を取り持てない自分が悪いのだと、何度も自分を責めてしまった。

 

私がもう少し大人なら

私がもう少し利口なら

 

この頃から、自分を責める癖がついた。

後にこの癖が自分を苦しめることになるのだが。

そうするしかなかった。

 

いくら頑張っても、二人は喧嘩ばかり。

報われない。

私のことで喧嘩してる、私が良い子になればきっと収まるはずなのに。

まだ足りない。

きっと自分がダメな子だから

 

 

気がつけば、母は趣味にのめり込み、父は変わらずパチンコ。

二人は顔を合わせる時間を減らすようになっていた。

 

 

生い立ち

 

欲しいものは何でも買える富裕層でもなく、極端に貧乏でもない。

少しの贅沢ならできる、そんな平凡な家庭に、一人娘として私は産まれた。

 

教師の息子で長男として生まれた父と、スポーツ選手の娘で長女として生まれた母。

まあぶっちゃけ、どちらもそれなりにお坊っちゃんでお嬢さまだ。

 

父は当時夜勤の仕事をしており、夜に仕事に行き翌日の昼間に帰ってきて就寝。

物心ついた頃にはそれが普通だった。

 

生活リズムが真逆の父よりも、四六時中一緒にいた母の方に私は良く懐いていた。

その名残は今でも残っており、いまだにマザコン気味である。

 

とても贅沢ができる訳でもないけど、当時は子供だから金銭的な欲なんてなかったし

忙しいながらに父が可愛がってくれていることも子供ながらに理解していた。

 

少し過保護ぎみで口煩いところもあるが、母の愛情にも包まれていたと思う。

 

そんな家庭が、少しずつひび割れていったのは

いつ頃からだっただろう。

 

 

成長とともに

 

そんな夢見がちな少女も大人になり、気づけばアラサーに突入していた。

26歳、未だに実感はない。

 

窓を開ければ見えるのは田んぼに小川、高層ビルも流行最先端のショップもない。

そんな田舎に嫌気がさして、上京してから早4年。

月日が過ぎるのはあっという間。

まあ正直なところ、何かを掴みたくて上京を決めた訳ではなくて

その実態は都会に憧れを持っただけのただのミーハー女である。

 

環境が変われば自分も自然に変わるだろうという、逃げる手段であり

 

そんな人間が、流れ作業のように生活を送った結果。

 

まあ、御察しの通り。

人間そんなに簡単に変われない。

世の中そんなに甘くない。

 

上京したての頃は輝いて見えた街のネオンも、今は薄暗くて汚く見える。

 

 

いつか王子様が。

 

子供の頃、寝る前に母が読んでくれたおとぎ話が大好きだった。

どの話のプリンセスにも共通するのは、兼ね備えた美しさと、色鮮やかなドレス、煌びやかな装飾品、そして何よりも、最後は必ずハッピーエンド。

 

必ずといってよいほど、お姫様を迎えにく王子様が現れるのだ。

「こうして二人は幸せになりましたとさ。めでたしめでたし。」そう締め括られた話に、随分と憧れたものである。

 

憧れるのと同時に、その様な幸せが大人になれば自然と叶うと思っていたのだ。

運命の人は必ずいるのだと、いつかきっとどこかで巡り会えるのだと。

 

信じて疑わなかったあの頃に戻りたいと、思い悩んだものだ。

 

そんな夢見がちな少女は、すくすくと成長していき。

 

 

気づけば、26歳を迎えていた。